海外メディア出演記事(翻訳)
https://www.abc.net.au/news/2022-02-17/hikikomori-seiko-goto-japan/100792330
リンク元記事:オーストラリア放送協会 ABC.net.au
100万人がひきこもる日本。彼らに手を差し伸べる一人の母
海外特派員 /
ジェイク・スターマー、デボラ・リチャーズ、ユミ・アサダ 記
後藤誠子さんは、息子が寝ているベッドの脇でナイフを持ち、息子を殺して自殺しようと考えていました。
世の中の役に立たない人間を育ててしまった自分に対する恥と絶望でいっぱいでした。
息子の匡人さんは、学校にも行かず、部屋からも出ようとせず、社会から孤立してしまったのです。
匡人さんだけではありません。
この現象は日本の「ひきこもり」という深刻な問題です。
この国の厳しい社会的期待に応えられない100万人以上の人々にとっては、ひきこもる以外の選択肢がほとんどないのです。
彼らは隠れます。
彼らの失敗が家族にとって、大きな恥だからです。
「近くのスーパーに行くのが怖くなりました」と誠子さんは語りました。
「息子の同級生の親に見られて、息子のことを聞かれるのが嫌だったんです。」
「通学路で楽しそうにしている学生を見て、その姿に涙しました。どうして私の子どもは彼らと同じになれないのだろう?」と
(写真)お盆を運ぶ女性
十数年前のあの夜、誠子は匡人の寝顔を見ながら、その優しく穏やかな表情をみていた、その瞬間
彼女は自分が息子に課した大きな期待が、彼を破滅させていることに気づいたのです。
「朝から晩まで勉強しろ、勉強しろと言い続けて、私はとんでもない母親だったと思います」と誠子さん
そして、変わらなければならないのは自分だと気づきました。
今では息子との関係も修復され、親子でよく笑い、幸せな日々を送っています。
匡人さんは、厳しい学校に自分を合わせなくてはならず「個性が消されていくような気がした」といいます。
「(ただ従うだけの)扱いやすい人間にさせられているという感じがして嫌だった」と。
安全な場所
現在27歳の匡人さんは、ほとんど家にいて、黙々と毛糸の犬や猫の編み物を作り、ネットで販売しています。
10年前には考えられなかったことですが、母親が運営する市内の居場所を手伝うこともできるようになりました。
(写真)編み物をする
(写真)本を読む
誠子さんは、行き場を失った若者たちに安全な場所を提供するため、「わらたねスクエア」を立ち上げました。
居場所の中では、外での孤独や寂しさから守られます。
「世の中には(息子の)ような人がたくさんいます。彼らは少し元気になったところで、すぐに外の冷たく厳しい社会に戻ることはできないけれど、その途中で立ち寄れる暖かく柔らかい場所があったらいい」と気づいたのだそうです。
「この暖かくて柔らかい場所を作れば、彼らが家から一歩踏み出せるかもしれない と思ったんです」
彼女は今、東北の小さな町、北上市のコミュニティ・ラジオ局から、寛容と包容力のあるメッセージを全国に発信し、社会からはみ出してしまった子どもたちに悩む親たちを励ましています。
どの社会にも引きこもる人はいるが、後藤誠子さんは、多くの日本人を引きこもらせているのは、日本の仕事に対する姿勢だと考えています。
「仕事ができる人、たくさん稼ぐ人は偉い人、仕事ができない人、稼げない人はダメな人と見られている気がします 」
(動画)日本のひきこもり問題に警鐘を鳴らす後藤誠子さん
「長時間働けないと強い劣等感を抱いてしまう」
「たまたま、人にはできることと、できないことがあるのですが、自分は役立たずだと思い、社会とのつながりを断ち切ってしまっているのだと思います。」
より寛容な社会を求める誠子さんの声は、国の上層部にも届いています。
最近、彼女は東京の厚生労働省に招かれ、ひきこもり問題を解決しようとする厚労省の担当者に話しました。
必要な社会的変化を本当に理解するには、まだ長い道のりです。
政府もこの問題に対して何かしなければならない、もう放ってはおけないと感じていると彼女は言います。
でも、それは戦いです。